2015年 01月 06日
背中に淡青黒色した虫食い状流れ紋様、体側星状朱点を点々と散りばめ、腹部のくすんだ橙色した引っかき傷痕、前ヒレ腹ヒレには白く縁どられた線状紋を持っている魚が山奥に棲んでいる。 奴の棲息地、南アルプスから北アルプス中部山岳部、さらに越後山地、奥羽山脈から海をまたいだ北海道まで野郎の棲家は本州脊梁山地、標高の高い主要山岳渓谷部地帯にある。そいつは厳冬期大量の積雪が棲家を下界から閉ざされていても、渓流水温が氷点下近くになっても、周辺温度が比較的高い湧水とうい安息地にて越冬している。この間、ほとんど食事を摂ることなく辛抱強く寒さに耐えながら冷水域を好んで生き延びている。 この渓流魚こそ、自分がその生態と生き様に感銘を受け、私の生まれた境遇に似ていることもあって、野郎に惚れ込み、とてつもない長い歳月を費やす、並々ならぬ情熱をもって奴と対峙した。かれこれ50年余、奴との出会いを夢見て、野郎の棲家を放浪した。野郎の正体「イワナ」という渓流魚で奴との付き合いはあきることなく今も続いている。 初めのうちは夢中になって山釣りイワナ釣行重ねてきた。それがあるとき「こんなでかい魚もいるんだ」と奴の棲家のなかで、大型魚のいる魚止め滝まで遡行し、1センチでも大きい大型イワナ志向に変化する。 それがある渓流遡行山釣り光景を垣間見るに至ると、長い間、夢に描いていた大イワナへのこだわり未練を断ち切るきっかけを見た。それはイワナ棲息地にある大渕に棲んでいる渓魚におけるイワナ定位を観察した結果、イワナの大きさを決めることに、ある法則を知ることを学ぶことができたことによる。 具体的には同サイズ同重さであっても、棲息場所によってイワナにおけるけ渓魚感触違いが生じていることにきずいた。一般的イワナ釣り人であれば、そんな事実は有り得ないと言われそうだが、イワナという渓魚を地の底まで探り続けた研究者であれば、自分のイワナ観と共有できると理解する。 私は以上の点を考慮し、同一棲家の渓魚を主(あるじ)イワナあるいは重イワナと名づけた。また同一棲家にいる他イワナを軽イワナ呼ぶことにした。この重イワナ、価値観的に貴重渓魚ということではない。入渓まれな奥地にもいて、またアプローチのない身近な渓流にもいる。さらに言えば、重イワナ棲む場所に玄関があり、扉を開いて中を覗けば、居間がある。真ん中には囲炉裏があって、火が昇っている。焚き火を囲みながら重イワナは神棚の近くに陣取っている。周りには家族イワナである軽イワナが主イワナを遠巻きにして座っている。 この重イワナ、毎日毎日、訪問者を歓迎するかのように、私の出会いを待っている。
by yuuyuugaku-ueno
| 2015-01-06 15:07
| 岩魚物語
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